裏磐梯のエコツーリズム活動

伊藤 延廣

第1章 導入からモデル事業まで

1999年(H11年)

北塩原村裏磐梯に19コース80㎞のトレッキングコース完成
3月完成記念の檜原湖国際トレッキングフェスタ(トレッキングフェス)を企画し、村内から関係者を委員として招集し実行委員会を立ち上げる
同月実行委員会に未来政策研所長 真板昭夫氏(日本エコツーリズム推進協議会:以下JES)を招き講演を依頼 この際、西表島におけるエコツーリズムによるガイドツアー他が話され、初めて「エコツーリズム」という言葉を聞く
同月JES役員(兼高かおる会長他)を迎え、第1回アドバイザー会議を開催しエコツーリズムの有用性について話を聞く
その後実行委員会は、「デコ平〜早稲沢トレッキングコース」他を何度か調査し、ガイドツアー先進地(軽井沢ピッキオ、奥多摩やまのふるさと村)を視察し、さらに何度かの検討会を経た結果、トレッキングの形態については同コースを使ったガイドツアーによるトレッキングフェスタ(2000年プレ及び2001年国際大会)及びJESの年次大会及び国際大会を共催することを企画した
11月トレッキングフェス、JES大会の共催企画がまとまり、第2回アドバイザー会議で北塩原村村長、JES役員ほかに対して企画書のプレゼンを行ったが、北塩原村の公的な企画としては採択されなかった。
その後、トレッキングフェスは村職員の企画で実施されることになり、一方JESの大会も同時期に裏磐梯で開催されることになった

2000年(H12年)

2月前年の活動からエコツーリズムの有用性を知った裏磐梯の有志は、それを学ぶ機会として「裏磐梯エコツーリズム研究会」を設けた
3月〜6月エコツーリズム講演会、研修会を数回開催
7月檜原湖国際トレッキングフェスタ、JES創立3周年記念大会が同時に開催された
JES大会では、エクスカーション(注1)に「デコ平〜早稲沢コース」のガイドツアーが採用され、15名のガイドの招集を依頼された 
この時、村からの依頼でトレッキングフェス参加者のうち50名をJES大会のエクスカーション(ガイドツアー)に組み込み5名のガイドを振り当てた
国際トレッキングフェス(プレ大会)及びJES3周年記念大会は、ともに盛況のうちに開催された その際、村が行った参加者(ガイドツアーを含む)へのアンケートの結果、ガイドツアーに対する評価が非常に高かった
8月以降裏磐梯エコツーリズム研究会は、エコツーリズムガイド(エコガイド)に関する研修会を数回開催し、JESからの講師によりこれらに対する理解とその共有を図った

2001年(H13年)

1月〜8月エコガイド研修を毎月1回のペースで行った
7月環境省自然公園大会開催
9月村主催の檜原湖国際トレッキングフェスは、すべてのコースを使ってフリーウォークとガイドツアーの両者を取り入れて実施された
一方JESの国際大会も好評のうちに開催された
これに意を強くした有志は、さらなるガイドツアーを核としたエコツーリズムの勉強を行った この際にもJESからは何度かにわたって講師が来磐された
これと並行して幾つかのガイドグループ(もくもく自然塾、いなわしろ伝保人会等)も有償のガイド活動を開始した

2002年(H14年)

3月裏磐梯観光協会内に「磐梯人エコガイドの会」が発足し、裏磐梯の自然やガイド技術を学ぶ研修会が数多く開かれる また有料によるガイド活動も開始される裏磐梯観光協会では「エコガイド付き宿泊プラン」を発売し、「自然街道・磐梯人ハンドブック」を刊行した

一方、福島県ではツアー事業者などからのガイド派遣に関する問い合わせに対応するため、県内のガイド団体(ボランティア、プロともに)を一堂に集め、情報共有のための「福島ツーリズムガイド連絡協議会(以下FTG)」を立ち上げ、11月には結成大会も開かれた
その後、FTGでは提供するガイドのレベルの平準化を図るためにガイド研修の機会を設け、さらにはガイド資格の認定制度も作り上げた
   
このようにして、裏磐梯においてはエコツーリズム=ガイドツアー的な要素が強かったが、活動は普及定着し始めた

こうした動きに合わせて、北塩原村商工会でも山田桂一郎氏(JES)を講師に迎え「宝(資源)探し」「ガイドツアー」などの研修会を数回開催している

2003年(H15年)

環境省では「環境保全型自然体験活動(後のエコツーリズム)」を2003年度および2004年度事業として実施することになり、屋久島と裏磐梯の2地域
が対象地域として選定された

裏磐梯ではJESが支援機関となって、資源デザイン研究所(所長海津ゆりえ氏他)の指導のもと検討委員会及びワーキンググループが設置され活動を開始したが、初年度はその多くが地域の現状や裏磐梯の持つ資源の調査などに向けられた なお検討委員会は環境省、福島県、北塩原村など行政機関及び観光関係者などで構成されている
11月環境省内に「エコツーリズム推進会議」が設置され、全国的なエコツーリズムの推進に必要な案件が検討された
その結果、エコツーリズム憲章、エコツアー総覧、エコツーリズム推進マニュアル、エコツーリズム大賞などの制定及びモデル事業実施の推進方策が決められた
モデル事業では、全国に「モデル地区」を選定し、2004年度から3年間エコツーリズム推進整備事業を展開することになった
裏磐梯地区はモデル事業対象地「多くの来訪者が訪れる観光地」として選定され、2004年度からは前年度の「環境保全型自然体験活動」に引き続きJESの支援による活動が継続展開されることとなった
この受け皿として北塩原村は、村内の関係事業者を集めて「裏磐梯エコツーリズム推進協議会」を立ち上げることとした
この間も、裏磐梯ではエコガイド研修を数回実施している

2004年度(H16年)〜2006年度(H18年)環境省モデル事業実施期間

2004年(H16年度)

前年度までの調査結果に加えて、さらなる現状調査、関係機関・地域住民などからのヒヤリングなどをもとに、下記のような具体的な活動計画を作成し実施した

A推進体制の構築
同年3月 裏磐梯エコツーリズム推進協議会発足

B重点モデル事業の実施
①  エコツーリズムカレッジの開講(裏磐梯学、育成学、保全学等)
②  研究者ネットワークの構築(各大学、研究機関、個人等)
③  情報提供システムの構築(ポータルサイト開設、モデル事業通信等)
④  保全活動の試行
①  地元関係機関(北塩原村、観光協会、商工会等)との連携

2005年(H17年度) 重点モデル事業

Aエコツーリズムカレッジの開校(同年5月)
①  同年5月〜12月 裏磐梯学(全10回)+地域学(全7回)
②  同年7月〜11月 育成学(全5回)
③  同年7月・10月 保全学(全2回)
④  2006年2月 特別講座2回(ガイドと法律、森林セラピー)

B研究者ネットワークの構築
① 東京、福島、立教、文教等の大学関係者及びその他の研究者
② 地元の古老、達人等
上記の方々の指導、支援により、エコツーリズムカレッジを開校

C情報提供システム
①  ポータルサイト(HP)の作成 地元パソコンクラブ等(12月デモストレーション実施)
② モデル事業通信の発行 (6,10,11、12月の全4回)
③ 北塩原村広報誌への掲載(6〜05年3月の全11回)

D保全活動
① モニタリング基盤整備のための調査、試行(同年10月)
*雄国沼湿原 (自然資源および負荷)
*五色沼自然探勝路 (利用動態)

E地元関係機関との連携
① 裏磐梯エコツーフェスタの開催
同年9月、二日間にわたって開催され、第1日シンポジウム(基調講演、パネルディスカッション他)第2日(裏磐梯体験プログラム他)が実施された

2006年(H18年度)

事業の最終年度も、エコツーリズムカレッジ他多彩な企画が継続して行われた
10月北塩原村・高橋伝村長は、休暇村裏磐梯にて開催されたエコツーフェスタにおいて「エコツーリズム宣言」を発表した

『エコツーリズム宣言』

* 裏磐梯をエコロジー(環境保全)とエコノミー(経済振興)が共生・調和する持続可能な環境地域とすることを目指します
* 五色沼・檜原湖をはじめとする三百もの美しい湖沼群、四季を彩る豊かな自然の恵み、歴史・文化を大切にします
* 裏磐梯エコツーリズムを通して人とのふれあい、自然・歴史・文化の保護、環境教育を推進します
* 地域の宝探しを進めて裏磐梯の魅力を発信していきます
* 自然や歴史、文化を伝え、良質なエコツアーを提供できるガイドを養成します
* 裏磐梯エコツーリズムは地域住民、関連企業、行政、そして会津地域のパートナーシップによる協働プロジェクトとして展開します

(これ等の事業は環境省のモデル事業であったため、経済的な苦労はほとんどなかった)

第2章 モデル事業終了後の継続活動

2007年(H19年)

裏磐梯エコツーリズム推進協議会は「裏磐梯エコツーフェスタ」をイベントとして継続させた
6月任意団体「裏磐梯エコツーリズム協会」発足

初年度は福島県の「うつくしま基金」からの助成を受けて、活動資金の一部とし、エコツーリズムカレッジ、情報提供システムの運用他を実施した
8月村のイベントとして「裏磐梯エコツーフェスタ」が開催され、協会も積極的にかかわった

2008年(H20年)~

*エコツーリズムカレッジ(注2)では、東京、福島、立教、文教の各大学及び個人の研究者、地元の達人などを講師に招き、裏磐梯の宝の共有を図った

*情報提供ではポータルサイト(HP)の作成、運用、「エコツーリズム通信」の発行を通じて裏磐梯の宝及びツアー企画などを発信した

*2008年春頃から、五色沼自然探勝路において、植生の変化(沼辺のヨシなどの伸び)に伴い「沼が見えない」とのクレームが観光客、観光事業者などから寄せられ始めた 福島県は関係者を集めて「五色沼利活用検討会」を開き「ヨシの一部刈り取り」が決定、試行された これを受けて刈り取り後の視界確保の状況を定期的に観察することになり、当協会がそれを担当し、五色沼自然探勝路におけるモニタリング(注3)を開始した また、これを機に「裏磐梯湖沼群の水質(注4)」「希少植物」「野鳥」「外来生物(注5)」等々のモニタリングも実施されるようになった

 こうしたエコツーリズム活動の経過の中で、前述した「裏磐梯エコツーリズム推進協議会」はいつしか姿を消した 一方「裏磐梯エコツーフェスタ」は「お客様感謝デー」と形を変えながらも、裏磐梯観光協会の主催イベントとして今日まで継続されている   

(了)

注1従来型の視察とは違い、訪れた場所で案内人の解説に耳を傾けながら参加者も意見を交わす「体験型の見学会」のこと
注2現在は「ばんだいの宝発見講座」と改題され、裏磐梯エコツーリズム協会主催で継続されている
注32021年現在も裏磐梯エコツーリズム協会の主な活動のひとつである 「五色沼探勝路通景線確保調査」として、グリーンシーズン中に毎月一回、希少植物のモニタリング調査も併せて行っている
注4裏磐梯湖沼群の水質モニタリング調査に関しては、2008~2018年までは高橋一泰氏が担当し、2019年以降は、裏磐梯エコツーリズム協会が引き継いだ
注5侵略的外来生物の防除活動についても、裏磐梯エコツーリズム協会は専門家の助言指導のもと「ウチダザリガニ」「コウリンタンポポ」「オオハンゴンソウ」「コカナダモ」の4種の駆除を裏磐梯周辺において積極的に展開している